<カノコユリ>
     ユリ科のユリ(リリウム)属は、日本にはヤマユリ、ササユリ、オニユリ、カノコユリなど13種ほどが知られており、世界には北半球に約100種弱が知られています。草本で、多数の肉質鱗片からなる鱗茎(球根)を有しています。葉は普通互生、花は総状花序まれに茎頂に1個つきます。おしべは6個、花被片は6個、子房は3室で3数性です。果実は刮ハで胞背裂開します。
     写真のカノコユリは、四国、九州西部、甑島などの比較的限られた地域に見られるユリで、きれいなピンク色をしていることから古くから栽培され、多くの園芸品種が作り出されています。私がかつて住んでいた長崎県では、西彼杵半島、九十九島、県北地方の所々で海岸近くの崖などに生えているのを見ることができます。カノコユリのカノコは「鹿の子」という意味で、白地に紅色斑点があるのを鹿子紋に見たてたことに由来します。なお、ヨーロッパでは、ユリといえば、イスラエル原産の白いマドンナリリー(聖母マリアのユリ)と決まっていたそうで、属名のLiliumはこのマドンナリリーにちなみ、純潔と無垢の象徴とされました。
     ギリシャ神話によれば、英雄ヘラクレスは、ゼウスが嫉妬深いヘラの目を盗んでアルクメネに生ませた子とされ、これに腹を立てたヘラは二匹の毒蛇を刺客として送ったが、赤ん坊のヘラクレスは両手に一匹ずつつかみ、笑いながら握り殺したそうです。ゼウスはヘラクレスを神に準ずる者にしようと決め、ヘラの聖なる乳を飲ませて不死身にしようとしましたが、ヘラに気づかれてしまいます。ヘラは赤ん坊のヘラクレスを放り投げたところ、ヘラクレスのはき出した乳は銀河となり、地上に落ちたしずくは白いユリの花になったとされます。