<アコニツム>
     キンポウゲ科のトリカブト属は、日本には30種程がみられ、世界では北半球の暖帯から寒帯にかけて300種程度が知られています。花は平安時代のお公家様がかぶっていた烏帽子のような独特の形をしており、花弁ように見えるものは実は萼片で、その中に小さな細長い花弁があります。花が独特の形をしているので、受粉の手助けをしているのは蝶やミツバチではなく、マルハナバチと決まっているようです。
     属名のアコニツムは、クレタ島のアコナイという地名に由来するとか、ギリシャ語のアコニチオン(毒が強すぎて克服できないもの)に由来するとか、又はアコン(砥石:切り立った岩に生えるため)に由来するとも言われていますが、毒が特に強いことで有名で、この毒素は属名からアコニチンと命名され、昔から狩猟や毒殺に利用されてきました。100gの根で大人50人分くらいの致死量があります。ちなみに、ソクラテスはドクニンジンで、ハムレットの父はベラドンナで毒殺されています。
     ギリシャ神話では、トリカブトは地獄の番犬ケルベロスの吐いた泡から生まれたとされています。また、魔女メディアは、同棲相手の息子である英雄テセウスをトリカブト入りの毒盃で殺そうとしましたが、利口なテセウスは、「まずはあなたからお口をつけなさい。」といって巧みにかわし、毒殺は失敗したそうです。
     花をつけていれば誰でもトリカブトとわかりますが、幼植物のときは他の植物と間違えやすく、山菜と思って食べて中毒を起こす事例があります。特に、春は山菜として利用されるニリンソウやモミジガサの幼植物に似ていますので、注意が必要です。トリカブトの解毒剤はまだ見つかっていないそうです。